私も自慢じゃないですが、一銭も持っておりませんでしたから、最初にお会いした時に「先生、ごめんなさい、何も持ってこなくて。」「私もそうでしたから結構ですよ」と仰ってくださいました。私はいつもこの人にはとてもかなわないと思って頭下げっぱなしの侭、先生はお亡くなりになりましたけど。
何しろこの古事記の文章から私が今申し上げていることを「こうですよ」と解明なされた方なんです。どれくらいの苦労をなさったか分からない。
分からなくなって、もう私なんかがする仕事ではないのかなと絶望にひしがれてフッと目を開けてみると十人くらい白い服を着たお爺さんに周りを囲まれて「分からなければ筆を持て」と言われて不思議と書けた、誰にも訊くことが出来ない。
布斗麻邇講座「経験知と実践知」(H18年6月・会報217-5)